壊疽した旅行者 四/ただのみきや
 
なかったが

ただアンモナイトだけが知っていた
石の心に揺蕩いながら
あれこれ想像してみる
 (風って 脚とか何本くらいあるのかな ) 





山菜なんて採りに出かける暇もなく
見切り品のこごみを買って来た
ボールに水を張り渥抜きしていると
小さな蟻が一匹浮かんで来る

――数奇な運命

銀のボールは澄んだ水を湛えている
生へと足掻くおまえ 故郷はもう
月や 来世ほども遠い処

――溺れる蟻は指をもつかむ

(すみません タオル貸してもらえます? あと電話も )

そんな最後の言葉を付与し
摘まんで潰してティッシュで捨てた

[次のページ]
戻る   Point(2)