壊疽した旅行者 四/ただのみきや
顔
曲り角を流れて消えた
そんな一つの時代だった
風と石
なよやかに孕む白い帆は女神の装い
はじめての愛撫に戸惑い身を閉ざしながら
内側からやわらかくほどけて往く新芽たち
春風は囁きながら時に強引
すべてのものと恋を語らう
木も草もない谷を滑り降りて
埃だけが舞うつまらない相手にさえ
その石は海だった
内にアンモナイトをひとつ住まわせて
記憶の潮騒に揺れていた
(ああ またさざめいた!
子猫を撫でるような仕草にすら水の性―― )
石は恋をしていた
敏感に感じていたのだ
それを表現する術はなく
反応ひとつ示せなか
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