Birthday Cake/ツチヤタカユキ
 
知らない。
金庫の鍵穴に、ハンマーを向ける。鈍い轟音。
それは小さな雷を、手の中で鳴らしたような、音だった。
ぶっ叩くと、振動が、腕に伝わって来て痺れる。
金庫が開くと、ギィーという音がする。
シオンの、流れ作業のように慣れた手つきが、これまで何度も、この犯罪を繰り返して来た事を、伺わせる。

福沢諭吉の束を取り出しながら、
こんな物があるから人は狂うと、シオンは、思った。
『まだ金が無かった頃の世界の方が、人はもっとまともだったはずだ』
そんな事を思いながら、シオンは、札束をバッグに突っ込もうとした。
その時、お札に描かれた、諭吉と目が合った。
福沢諭吉から見える景色。
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