雨の日、うつくしい使者と/ホロウ・シカエルボク
 
れながら歩いた

角を曲がるとあなたが立ち止まって僕を待っていた
喪失をたくさん飲み込んだみたいな笑顔を浮かべていた
ぼくはなんとなくそのことがわかっていたような気がして
あなたを不快にさせない距離で立ち止まった

「いけませんよ」とあなたはいった
「小ぶりだからといって傘を閉じてしまっては」
いいのです、とぼくは答えた
昔からこうしていたのです、と

「いけません」とあなたはもう一度言った
氷の洞窟の奥深くから微かに聞こえてくる反響みたいな声だった
「雨は空がいらなくなったものを捨てるための手段」
「いらないものにまみれていたらいらないものになってしまいますよ」

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