雨の日、うつくしい使者と/ホロウ・シカエルボク
 
ふためく引率の大人たちのあいだを
あなたは目もくれずにすり抜けていく

じきに動かなくなった血まみれの男の子は
きれいで冷たいひとを見たと言い残した
そのそばに居て彼の無事を願っていた女の子は
そのひとをおばけみたいだと思った

ぼくはどうにかしてあなたに話しかけたいと思っていた
ねえ、こんなときだから
マスクをしないと駄目ですよとか、そんなことを言って
でもなにかが足りない気がしてふんぎりがつかなかった

濡れたブロック塀は迷いを端的に表現しているみたいで
毅然としたあなたの足跡とは大違いだった
ぼくは傘をさすのが面倒臭くなって
きれいに丸めてボタンで留めて濡れな
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