行方知れずの抒情 三/ただのみきや
の中で暮らしたいものだ 」
三日月が上った風のない夜
お山の大将は井の中の蛙の声を聴いた
同じ頃
井の中の蛙もお山の大将の声を聴いた
傍から見れば類語関連語で括られもする両者だったが
「ああ威張りくさって五月蠅いだけ お山の大将かよ! 」
「外を知らない井の中の蛙 引きこもりの暗い奴め! 」
相手が癪に障るばかり
わたしは
まだ朝露を含んだままの野の花々や
夏の恋に狂い煌めく蝶たちを
食べさせてもみたが
夜明けの際
海に浮かんだ象牙の月に金と銀の弦を張り
母を失くした幼子の指と
想い人を奪われた少女の声で
哀歌を聞かせてもみた
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