行方知れずの抒情 三/ただのみきや
「――お山の大将でなにが悪いのか
小さな山だって大将になれるのは一匹だ
批判する奴はすればいい
そんなのは負け猿のやっかみだ 」
小さな山のすぐ麓
井戸の中に蛙がいた
大海を知らずと言われ続けて
いささか鬱憤はたまっていた
蛙は大海を知ってはいた
遠く眺めて 自分には向いていないと悟り
自分が自分らしくいられる場所を探し歩き
見つけたのが井戸の中だった
井の中の生活に慣れると外へ出るのが億劫になるし
どこか不安でもあったから
「――広さも暗さもこのくらいが丁度いい
声も反響して心地良いし
大勢でいると自分の声がわからなくなって嫌なんだ
できたら一生 井の中
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