行方知れずの抒情 ニ/ただのみきや
 
飽くなき餓えが白く歯牙を立て
衣を脱いだ月が眼差しの禊に震えるころ

逃亡者は帰郷する忘却の地から
振り返れば閂を下ろした大地に降り積む鎮魂

目を見開き 口は閉ざしたまま 星のよう
すでに滅び 尚もそこに在る者たち

あの夏の 影を失くした蝶 狂ったトリル
色香の渦は息絶える 薄化粧の掌

あなたの白鍵 ひとみの黒鍵
指輪の箱に仕舞われた黄ばんだ乳歯

幻すら去った朝 静物として残っていた
隠されたままの主題がいつまでも支配する




過失

誰かが放った銃弾が双生児の片方の心臓を打ち抜いた
銃を撃った者の心に何かの大義や正義があったのか
[次のページ]
戻る   Point(4)