あの娘は灰色の中に消えた/ホロウ・シカエルボク
 
かと思っていたのだけれど、そんな思い出はひとつも浮かんでこなかった、ないはずはなかった、でもそれは擦り切れたレコードみたいに雑に再生され過ぎていた、どこに針を落としても記録されているもののほとんどをノイズが打ち消した、とっくにそうなっていたのだ、いつからか、ずっと…ふと、僕は砂を踏む足音が自分のものだけになっている気がして振り返った、振り返るのは遅過ぎた、ひとつの小さな足跡は少し後ろの方で折れ曲がり、堤防のほうへと続いていた、その足跡の先、コンクリート製の堤防の向こうに、何度も見送った後ろ姿が遠くなっていくのが見えた、僕は立ち止まってそれがどこの誰なのかわからなくなるまでずっと見つめていた、それは
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