とおい記憶/草野大悟2
心も軽くなった。
でも、冬がいるわよ。
秋が言った最期の一言が渦巻いてはいたが、晴々とした気分に包まれていた。
………冬。あたりは、静寂という名の暴力に支配される。その凶暴さは、嫌いではない。いや、むしろ好んでさえいる。それでは、なぜ、冬を消そうとするのか? 答はおれの中にある。
深淵に潜む凶暴さと冬の暴力とが共鳴して、制御不能な世界を創出してしまうからだ。
そうだ、やるのだ。これまで何度もやってきたように、殺せ。奴を殺せ。ナイフやロープや斧や毒などではなく、あの、とおい記憶で。
季節があわただしくすぎていく。いま、どこにいるのだろう。さっぱりわからない。わからな
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