とおい記憶/草野大悟2
 
らないから歩いている。ながいあいだ歩いているようなきもするし、ついさっき歩きはじめたようなきもする。たしかなことがひとつだけある。風だ。体と心とをふきぬける風だけが実感される。どこからか、それでいい、という声がする。その声は、聴覚などではなく、存在の奥底でまどろんでいる、[おれそのもの]を震わせる。
 ………それにしても、今日はなんという日だ。逝きそびれた蛍がひとり、ふりしきる風花のなかを、緋色にけぶりながら、天へと昇っていく…………

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