遭難/ホロウ・シカエルボク
つぎは髪を切るのかい、とおれは皮肉たっぷりに話しかけてみようかと思ったが、やめた、それをきみが耳にしたとき、どんな言葉を返すのかまるで想像出来なくなっていたせいだった、最初のちいさな雪が頬をかすめていく、空はレクイエムの楽譜のようにさまざまな灰色の階層でおおわれている、そういえばそんなことを言ってた、あけがたのウェザーニュースで、午後から雪になるだろうって、色のない笑顔と研ぎ澄まされた活舌に支配された若い気象予報士がそんなことを言っていた、雪が降る、部屋に戻らないか、おれはどんな思惑もなくそう話しかけた、なんのこだわりもない一言だった、懐かしい素直さがそこにはあった、だがきみは振り返ることなく、な
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