エレン・ファヴォリンの雪/朧月夜
 
も……それはまだ先のこと。僕は足もとの雪をふんだ。僕の靴をじっと見つめる。やがて、僕のつま先にゆっくりと水がにじんでくるまで。そうしてはじめて海を見るんだ。沖にはむこうの島が見える。あの島には電気がかよっている。あの島には水道もかよっている。あの島には手紙もとどく。でもね、僕は僕の薪小屋を冬じゅう守るんだ。雪から。風から。冷たさから。吹雪から。
 海鳴りがする。風が遠く、遠く、聞こえる。風の音は太陽よりも遠い。太陽は、ねえさんよりも遠い。ねえさんは、僕のなかにいる。ぼくのなかのねえさんが、もういちど声をたてて、言う。
「いつか、フィヨルドの上でね。わたし、いつだったかフィヨルドの上で……」

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