エレン・ファヴォリンの雪/朧月夜
ったんだ。フィヨルドほど高くはないよ、そこらじゅうにある山さ。僕ね、おもわずねえさんの手をつかんだ。大人になったら、僕、ねえさんと結婚したいな。そう思ったんだ。
手の腱がふるえていた。ちょうど雲の切れ間からさす光みたいに。
ねえさんはボートを出して、モーターのエンジンをかけた。
僕は、ただ見送った。
今朝、僕はひとりで朝食の用意をする。昨日、僕はひとりで朝食の用意をした。一昨日も、僕はひとりで朝食の用意をした。春まではなにも帰ってこない。花も、日ざしも。でもね、僕は冬が好きだよ。凍える手がこごえるとき、僕の冬は僕自身にかわる。僕は冬じたいにかわる。いつか、春はやってくるよ? でも…
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