老いたペンギンのメモ/由比良 倖
 
椅子が心に馴染む。僕は今は乾いた、ずっとふやけていた十本の手指を、さらなる老いに馴染ませ、古びさせていく楽しみがある。脳髄、髄液を百年掛けて蒸留していく、じっくりとした計画もある。文学、そう、それから音楽、ギターはいい音をさせて、飴色に、よく乾いている。手の指は糸に似ていて、その先は買ったばかりの銅線のように、ギターの弦に艶々と巻き付いている。古くなっていく、僕自身の背表紙のための、僕はルリユール(古書の修繕職人)になる。嬉しいことに、僕は老いた。少年のように。

古風な文体をやめる。ちょっと遊んでみた。いや、もう少し続ける。ともかく、僕は鬱が去ってもう五ヶ月にもなり、これからの生活を段々に、
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