老いたペンギンのメモ/由比良 倖
。ねえ……僕は一挙に文学老年になった。少年漫画のシリーズが、くすんだ色合いの、いい匂いのする晩年漫画となって並んでいる。西瓜鱒のランタンのようにいい匂いだ。老年となった今、僕には未だ、未使用品のようにつるんとした、僕の十本の手指がある。古象の皮膚のようになった自傷痕、ひときわ美しく刻印された手首の傷あと、腱を切ったので、親指には未だ満悦するような麻痺がある。有り難いことばかり。雨の中、灰色の脳内役所で手に入れた、実際的で事務的な、ぱりっとした名刺のように、老いた眼を楽しませてくれるいくつかのもの。万年筆なんかもそうだし、雨の中でしか出会えない、道連れを、やっと僕の書斎へ案内できる。さて、簡素な椅子
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