老いたペンギンのメモ/由比良 倖
 
。しかし僕は、23歳から31歳までの豊穣な、自分専用の脳内ライブラリーの基礎固めの時期、ずうっと雨に打たれていた。僕は文学少年だったが、文学青年にはなれなかった。なるべきだったのだ。僕は僕の脳内に鍵を掛けられていて、脳内が嵐と腐食にめちゃめちゃにされていくのを、どうすることも出来ずに、ただ僕の自己の外から、自己への扉を叩きながら、ただ茫然と、僕は僕から阻害され続けていた。ただ、久しぶりに僕が自己の中に、不意に入室許可を与えられたとき、僕の中にあるのは、八年前と変わらぬ、懐かしい僕の部屋だった。いくらか薬と煙草の匂いでむせ返るようではあったけれども、少なくとも原形は保っていたし、開かれた本は、そのま
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