老いたペンギンのメモ/由比良 倖
 
のは、ただそれが唯一の希望だったからだ。昔と同じように書けたなら、昔と同じように楽しくなれると思った。自分がペンギンだと思ったのは、鬱の初期の頃からで、最初は、今少し泳げないだけだと思っていた。その内に、僕はもう、泳ぐための羽を失ったのだと思って、その考えは文字通りの絶望なので、出来るだけ排除した。そして定期的に自殺未遂をした。自分を砂漠にいるペンギンだ、と思うよりも辛いのは、自分自身の能力が永遠に失われてしまった、と感じてしまうことだ。一生もう泳げない。一生泳げないペンギンなりに、歩いて、楽しいふりさえしなければならない。だから僕は、本当は泳げるのだけれども、今はたまたま砂漠にいるのだと考えて、
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