サイレンス/la_feminite_nue(死に巫女)
トリーを買っているのだろう、1個わずかに160円の品を。街路樹と街路樹のあいだに、少しの間隙として舗石はある。何ものをも物語らない日常に吹く風、それもまた無音。シルクスクリーンに描かれた幻想の絵画のように、見ず知らずの者はそこに筆を加える。夏はそこにあっただろうか。今は冬、秋の時間を経て……。楓は失恋の痛みを抱えたまま、男のそばに寄り添う。そして言う、「わたしは貴方を愛していなかった」と。男は無言で立ち尽くしたまま、彼女の姿を決してみない。サイレントの映画のように、そこにも音はなく。あなたは音のない世界に迷いこみ、無音の音に翻る。いつかそれはわたしであり、わたしではない。楓は本を閉じて、その夜の眠
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