サイレンス/la_feminite_nue(死に巫女)
 
の眠りに就く。眠りに就くのだろう。それは書き止められた一片の物語で、彼女のなかにある何物かをメロディーにしたものだ。それも不協和音の、振動数だけを抱えて。わたしは男のそばをすれ違い、市井の世界のなかに溶け込んでいく。そのころ林檎は、世界のなかに降っている。地に触れた林檎は音もなく砂のように崩れる。そこから先に進む場所はない、と楓が気づいたとき、彼女は物語のなかにいる女性だということを自ら知る。わたしの楓。楓であるわたし。そこは音のない世界、無音の砂漠。ミツバチが蜜を運んでいくように、かすかな交替だけが行われる世界。そして、空そのものがメタモルフォーゼを迎える。きっと、わたしは楓や男が描く物語の一つなのだろう。今日も誰もいない街の死角で、朝の光と夕べの光とが違うということを確かめている。ペストリーには砂糖漬けのシロップがかかっている。世界球から世界球へと、一つの糸が橋渡しされる。
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