<詩「あるなんでもない日」、「白き神の抱擁」、「婚礼」、「カフェ」「君の来る日」、「山城合戦」、「冬.../タカンタ、ゴロキ、そしてパウロ
 
い表情を浮かべているように見え、あたしは彼女の表情
の変化が何を意味しているのか思いあぐね、意識は幸福の余韻とすぐ先に迎えるその日への恐れとの
あいだで揺れ動いていた。

「杉谷家にて」

 あたしは富裕な慈善家の女性にひきとられた。
 あたしの住みはじめる館は芝生の薄い波が海の小弯に向かって続いている小高い丘の上に建ち、庭
には美しい幹を見せる白樺とぶなと名前のわからない木々、鯉の泳ぐ小さな池の周りには水仙が咲い
ていた。その隣にある花壇には、紫陽花や石楠花などの花が忘れないでと訴えるかのように西風に揺
れながら背の高さを競っている。ただ、あたしの好きな薔薇はなかった。門から
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