すいそう/田中修子
澄んだ魚の、ヒューゴー、ヒューゴーという苦し気な音が聞こえるような気がしたのは、脳溢血で倒れて病院に運ばれた母の鼻に差し込まれた透明なチューブと、死へと歩んでいく母の呼吸と。
(あなたはなにをおもっている)
淡く銀色に光っている魚、すでに溶けてかけている目玉、落ちくぼんだ眼窩と。
そんな姿になってもゆらりと泳いでいる魚と、わたし。
一枚のガラスをとおして見つめあっている。
と、歪んで崩れてゆく世界。
わたしは水槽の中にいた。
いや、水槽ではなくて、そういえば、わたしのいるのはガラスの箱舟だった。なにをぼんやりとしているのだろう。
幾度目かの洪水が
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)