すいそう/田中修子
 
澄んだ魚の、ヒューゴー、ヒューゴーという苦し気な音が聞こえるような気がしたのは、脳溢血で倒れて病院に運ばれた母の鼻に差し込まれた透明なチューブと、死へと歩んでいく母の呼吸と。

(あなたはなにをおもっている)

 淡く銀色に光っている魚、すでに溶けてかけている目玉、落ちくぼんだ眼窩と。
 そんな姿になってもゆらりと泳いでいる魚と、わたし。
 一枚のガラスをとおして見つめあっている。

 と、歪んで崩れてゆく世界。

 わたしは水槽の中にいた。
 いや、水槽ではなくて、そういえば、わたしのいるのはガラスの箱舟だった。なにをぼんやりとしているのだろう。

 幾度目かの洪水が
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