だいどころ/田中修子
 
にきこえる音を、
問い返しつづけてきたあるひ。

あれらはただ
ひかりのしたたりで、できていた
ということに
ふと気づいた

シンクにむかう、銀色の祖母の髪の毛と、灰色のエプロン。皺がれた手は、すっと包丁を持っていて、ト、トトトト……と軽い音を立てて、きゅうりを薄く、薄く切って、その薄い、みどりいろの輪は包丁にまとわりつかずに、はらはらとまな板に綺麗に斜めに落ちていく。花びらのように。わかめときゅうりの酢のものですよ、わかめを食べると黒い髪になるでしょう。みどりいろの、すこしなまぐさい花を食むんです。お嫁にいきます、おばあちゃん私、お嫁にいきます、あなたの音の記憶をもって


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