だいどころ/田中修子
 
ほら、あの窓から記憶を
覗いてごらんなさい。
風が吹いてカーテンが
まだ、朝早すぎてだれにもふれられていない ひかり を孕んで揺れている。

そこにはかつてあなたの( )があった、と、重たくふくらんだ ひだ が、ささやきかけてくる。もうすぐうみつきね。まちをゆくと沢山の母たちに、笑みをもらう、やがてこのひとたちの仲間になってしまうんだわ、おなかのなかにいるのは。
(追憶する夜の森。月と星がさいごのおおかみを照らす。ひたばしれ)

あの ちいさな、みち溢れた空間をおぼえていますか?

覚えてます。くっきりと覚えてます。うつくしく、やけついたようなんです。やけついて離れないんです、
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