雪〜バイノーラルならば雪/黒田康之
した
視界のない斜面をできるかぎりスピードを出して降りてゆきます
湯気があっという間に立ち込めて鏡は曇ってしまいました
新雪の中の昨日の楽しさの形跡に躓いて
明日はちょっと大きな仕事なので
何度か派手に転んでもまったくのひとりきりです
書類を仕上げなければならないはずなのに、ぼんやりと眠気がさしてきます
斜面に寝転ぶと僕は白一色の中にいて
だから出たら書類を書きます
確かな斜度と自分の手足だけが確かにあるだけの世界にいます
街はとても明るくて、遠くまで空はオレンジ色です
そんなことを何度か繰り返して僕は
明日のために書類を書いてみました
またもとの麓の近似値を
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