旧作アーカイブ5(二〇一六年四月)/石村
 
私が好きだつた あなたの翼が
薫る風にゆれてゐて 
ふたりの午後はなんとも すがすがしいのでした

西のかなたを
小さな雲がゆきます とほくへ
その後は どこまでもすみわたる空だけ

それがあんまりきれいなので
あなたも私も 泣いてしまひさうでしたが
そのかなしみは とてもはやくて
涙は追ひつかないのでした

いつも いつも 思ひだすことといへば
あなたの瞳に住んでゐた あの日々のこと

薫る風と 新しい緑の まばゆい季節に
あなたの翼がゆれてゐたのでした――

その瞳も翼も いまはなくて
この世に私の住むところもありません

それでも 果てないひろがり
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