真夜中、旋律のない第一楽章/ホロウ・シカエルボク
 
どんな感想も抱いてはいない、間に合おうと間に合うまいと彼はその日くたばるしかなかったのだ、子供のころそんな風によく、些細なことに心を奪われたことを思い出した、それは時には天井の隅の、人の顔のように見える三つの黒い染みであったり、洗面の鏡に映った、どことなく他人のように見える自分の顔だったりした、そうしてわたしはいろいろなことが気になって、時には半時間近くもそれを眺めたまま佇んだものだった、でもどうしてだろう、いまわたしの心をとどめているこれは、そうしたいっさいのものとはまるで性格が違うものだという気がした、あるいは、あの時漠然と感じていたなにかが、漠然としたまま少しだけ具体性を増したのだと、そんな
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