生きてきたこと:Part 2.1/由比良 倖
 
にストーカーが入り込んで、ほら、壁を叩いている」と言った。僕はそれは風の音にしか聞こえなかったのだけど、祖母があまりにきっぱりとそう言うので、段々、そうなのかもしれない、と思えてきた。日を追うごとに祖母は不機嫌になって「頼むから帰ってくれ」と言い始めた。僕という若い男が祖母の家にいることが近所中に知れ渡って「注目の的」になっているという。僕はそんなものかな、と思って帰ってきたのだけど、僕の存在が重荷になってきたのを、はっきりと僕のせいにしなかったのは、もしかしたら、それは一種の優しさと呼べるのかもしれない。霊が身体を這い回ったり覆い被さったりしているとき、母が祖母の背中を撫でてあげると、祖母はさら
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