音叉/ただのみきや
 
 *

川沿いの萌え木はふるえている
見えない愛を実感したくて
目を閉じて 身をゆだねた

 雨の弦 爪弾く眼差し

貝殻を拾う仕草で
またひとつくぐる風の裳裾
昨日も今日も 
 ひとつの旋律
光を受けて 透き通る 孤独な音叉
  いくつもの歌詞に身を変え添い寝して

散らして散り尽くす 実も残さない花弁に
顔を埋めて 息を止め――
     血管を遡上する棘魚
       美しく白痴化して
         擬音すら寄り着かない廃屋

月は半眼 色濃く 影を添え

黒い雨が降る 前景へ わたしの背景から
無数の
  コールタールの瞳 
   
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