旧作アーカイブ4(二〇一六年三月)/石村
 
 海辺の家


海辺の家で
私たちは長いあひだ暮らした

ふたり寄り添ひ
絶えることのないさざ波を
いつまでも目で追ひながら

毎朝きいてゐるうちに
鴎たちの言葉を覚えてしまふほど
長い ながい時を

そこには私たちのほか たれもゐなかつた
ずつとずつと 私たちだけだつた

晴れた日も 風の日も
私たちの海は 私たちのものだつた

そぼ降る雨の日も 砂浜にすわつて
おだやかにたゆたふ波の上に
優しくそそぐその音を 飽きることなくきいてゐた

ふたりして風邪をひき
熱い額をくつつけあつてねむつた
そして爽やかな朝の冷気と 潮の香にめざめた
空はど
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