旧作アーカイブ1(二〇一五年十二月)/石村
な春の日に
星をめざして一心に飛んでいつた燕が
今朝 そこの丘の端に落ちて死んだ
たれも知らなかつた
お前がどれほどそこに近付いたかを
あとひと飛びといふところで力尽きた
お前の望みの気高さを
思ひ上がつた科学にも
卑劣な物理法則にも
屈従を説く哲学にも耳を貸すことなく
お前は一心に突き抜けた
その広大な空間を
ただひとつの約束を 果たすために
ほんたうにあとひと飛びといふところで
残された最後の羽根が しづかに燃え尽きた
たれも知らなかつた
仲良しだつた森の妖精が
一緒に歌をうたつて過ごしたあの丘の外れで
しめやかな春の雨に
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