旧作アーカイブ1(二〇一五年十二月)/石村
 

その悲しみたちも忘れられた

その片隅にあどけなく咲いてゐた
ひと叢の菫(すみれ)の行く末を
見守つてゐたのは君だけだつた

ため息の中で数億年が過ぎ
その頃と同じ青さの空の下にゐる

僕はまたここに戻つてきた
ほんたうに大切だつたただひとつの言葉を
今なら 君に云ふことができる

星々のめぐりは もう
終はろうとしてゐるのかもしれないけれど
やさしい人たちは いつか帰つてくる

いつでもそこの木蔭で 黄菫たちに囲まれて
いとけない眠りを眠つてゐる
君のもとへ


(二〇一五年十二月三日)




  小さな風


麗かな春
[次のページ]
戻る   Point(14)