モギリ / 冷たい大理石の記憶/beebee
 
のだった。
 洋服売場の商品タグが一番好きだった。セピア色のタグやブラックのタグ、特殊な紙質でセルロイドのように見えたり、大理石を薄く切ったように見える物もあった。特別な獲物が取れると私はとても幸せな、得意な気分になるのだった。 都会の人いきれと色彩の豊かさに幻惑してしまい、私はいつも最後には疲れてしまって、帰りの電車の中で眠り込んでしまうのだった。
 その日、大阪大丸百貨店で私は迷子になった。いつものようにタグをいっぱい握りしめて売り場を走り回っていた私は、気が付くと母親も小学二年生のちっちゃい兄ちゃんも見えなくなって、階段を独りで降りていた。大理石の広い階段を下へ下へ降りていった。いつもの
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