モギリ / 冷たい大理石の記憶/beebee
 
もの目印の場所が見つからなくなって、私は迷子になってしまった。滑らかな冷たい大理石の感触を覚えている。
 迷子を告げる館内放送を受付のベンチに座って聞いた。受付のお姉さんに凭れ掛かって一緒に母親を待っていると、いつの間にか疲れて眠ってしまった。ちっちゃい兄ちゃんの声が聞こえて目を覚ますと、母親がすぐ側に立っていた。
 私は母親にかじりついて泣いたのだろうか? あの頃うそ泣きが得意だったから。でもそこからよく覚えていないのだ。家に帰ってから父親にも叱られたのだろうか。その頃の父親はとても怖くて、うそ泣きができなかった。
 私たち兄弟が使っていた、昔父親が使っていたと云うお下がりの勉強机の、一番手前の大きな引き出しの奥に、硬い紙の箱の中に隠して、私は商品タグをいっぱい持っていた。私の宝物だった。見つけた写真で握っていたのは、その頃お気に入りの商品タグに違いなかった。でもいつの間にかみんな捨ててしまっていたよ。
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