最終電車/石村
 
んにもらつた羊皮紙の地図をたよりに
もくもくと漕いでいく
いつしんに
ひたすらに
なくしものは まだそこにあるのか
すてられてはゐないか
ぬすまれてはゐないか
わたしの気はひどく焦るのだ

ふりしきる 粉雪をつき抜けるやうに
乳白色の星々がとびすぎてゆくなかを
せつせと漕いで また漕いで やがて
さみしい外れのあたりにくると
川幅がだんだんほそくなる

おぢいさんの地図はここまでだ
大丈夫 ここまでくればもうわかる
あとは一本道だ
七十六兆の引力ベクトルが
相殺される空白に沿つて
通じてゐる ひと筋の透明な航路
やがて星々がまばらになり
ぽつり ぽつりと
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