最後の一羽/やまうちあつし
 
らないものだったかも知れない

とある小春日和
清掃のため檻の中に入った飼育係に
マーサは語りかけた

「そろそろおいとまでございます
 これまでのご奉仕に感謝いたします

 私の一生は平穏なものでした
 私は外の世界を知りません
 空の高さも風の冷たさも
 雄大な山脈も広大な海原も
 自分の羽で飛んだこと
 自分の眼で見たことがありません
 けれども
 私の体の奥に備わった
 〈遠いお手紙〉が
 それらひとつひとつを
 私に理解させました

 そしてあなた方人間たちが
 私たち一族に
 どんなことをしてきたか
 私は理解しています

 その舌な
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