節子という一人の女に/こたきひろし
くる人があるから来たら休憩に入らせてくださいと。
店長はけして快諾してくれはしなかったが、駄目とは言わなかった。
節子は婚約者と言う男性と一緒に店にきた。
見るからに真面目で誠実で実直そうな人だった。人柄も優しそうだった。
その分男の毒性は感じられなかった。
その風貌に若さは失われ頭髪は薄くなっていた。
職業は銀行員と聞いていた。郵便局職員の節子が選んだ人に相応しいと私は思った。
私が二十歳になった月に節子は川崎から私のもとへお祝いに来てくれた。
当時、私はまだ東京にいた。
その日私は休日だった。その日は一日節子と二人で都内を歩いてまわった。
私は記憶を掘り起こしていた
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)