節子という一人の女に/こたきひろし
 
いた。

節子が私にしてくれた事。
彼女が高校生最後の春の日に中学三年の私に作ってくれた焼き飯。
お互い働き出してから、彼女が私の口座に振り込んでくれたお金。
私が自動車免許を取るために。
私が歯を治療する為に。
節子が私の為にひそかに積んでいてくれた郵便局の保険。

瞬く間に時は過ぎてしまい。
節子は五十代半ばで肺癌末期になっていた。
その人生の悲劇。
義兄は早期に銀行を退職し節子とその余生に付き添った。
節子の伴侶選びは間違っていなかった。

そしてその葬儀は家族葬。
私は身内として弟として節子の焼かれた灰のなかから骨を拾った。
そして心のなかで一首を詠んだ。

 長いこと会わずにいたら君の死が会えない事の続きに思えて

私はそれを何ら躊躇いもなく新聞の歌壇に投稿した。
単純に歌詠みとして。
それは入選し紙面に載った。
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