節子という一人の女に/こたきひろし
私はまさに根のない草だった。
飲食店の厨房の仕事を転々と渡って歩いた。
三十歳に手が届く頃は出身県の県庁所在地の街で働いていた。
そこはパブレストランで駅ビル周辺の繁華街にあった。朝七時からはモーニングタイムで十一時まで営業し、そこからはお食事タイムに、そして夕方六時からは洋風の居酒屋になった。照明をおとしてぐっとおもむきをかえていた。
連日客の入りはよかった。そこから県庁は近いし、駅ビルから流れてくる客も入ってきた。
平日もさながら土日は繁忙を極めた。
そんな土曜日のある日に節子が店をたずねてきた。来ることは電話で連絡があったのであらかじめに店長に頼んでいた。私をたずねてくる
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