狂った文字盤の針にもグルーブは隠れている/ホロウ・シカエルボク
 
あいつが執拗に話しかけてきたことが一度だけあった、どうしてそんなことを続けているんだ、どうして書いているんだ、面倒臭くはないのか、やめたいと思うことはないか―そいつは矢継ぎ早にそんなことを尋ねてきた、俺は指先のリズムを殺したくなくて、そのどれにも返答することなく先を書き続けた、やがてそいつも喋ることをやめて、俺が描いているそいつの肖像画をじっと眺めていた、もしかしたらあいつも、自分がどんな理由でなにを求めているのかなんて知らないでいるのかもしれない、俺もあいつも、産まれてきたことに踊らされ、理由のない衝動に溺れ、欲望の粘つく海の中で喘いでいるのかもしれない、だからこそそれは、いくつもの段階を経て変
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