美空の下に美空の果てに/こたきひろし
しまうそうな美しさだった。
何だか即座に生きているのをやめたくなるような美しさだった。
平凡な日常が粉粉に砕けてしまう寸前のような痛みが胸を捉えてきた。
その日私はJR線の電車に乗って県外のとある街に行かなくてはならなかった。
定年を境にそれまでの職を失った私は、ずっと張りつめていた糸がぷつりと切れてしまったようだった。もう何もする気概をなくしてしまうと、無業のままに一年近くを過ごした。
しかし、僅かな退職金と失業保険を食い潰してしまいそうになってきて現実に
目覚めない訳にはいかなかった。それはまさに米びつの米がなくなっていく焦りだった。その焦りに追い立てられて何とか再就職の口を手
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