合図/ペペロ
なのか雨なのかわからないくらい、彼とずぶ濡れになりたい。
あたしは結局風邪をひいた。あの夜あたしたちはイヤホンで音楽を聴きながら雨のなかを走って、蛍光灯と埃とガムの匂いくらいしかしない朝一の地下鉄にのってそれぞれのおうちに帰った。
あたしは途中音楽を聴くのをやめて、樹木希林の映画を断片的に思い出しながら走った。
映画はひとが死んでいく内容だった。もうひとりの主演俳優の名前や顔は忘れた。となりを走る彼の名前や顔は忘れないのに。それがすこし不思議だった。
からだの調子が悪いのに彼が会いたい会いたいと言ってきた。あたしは台所のおかあさんとリビングで話をしながら胸をはだけて、その写真を送っ
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