合図/ペペロ
 
送ってあげた。
しつこいくらい彼からのラインが鳴っておかあさんが誰と話してんのと台所から顔をのぞかせた。

生きているとき彼女はテレビで全身ガンだと言っていた。あたしは嘘だと思っていた。
でもほんとうだったのだ。
嘘も言い訳もせずにあたしは生きていた。
それは強い意志などではなくて、気ままに生きてきただけの話だ。
風邪でしんどい。樹木希林はもっとしんどいここ何年間だったのだろう。
喉が痛くて鼻もつまっている。なによりも頭が痛い。樹木希林は全身が痛かったのだろうか。

彼とひさしぶりに会った。おれも風邪ひいてたんだよ。樹木希林の映画の俳優の名前と顔を思い出した。あたしにとってそれはどうでもいいことだった。
樹木希林の映画もたまに漠然と思い出すだけだ。ウィキとかYouTubeとかで探すような熱心さとはほど遠い。樹木希林をおもうことも、あたしにとっては気の向くまま。
彼はホテルに行きたがった。あたしはそれにカチンときていた。それがなんだか準備完了の合図のように思えた。つぎに踏み出すところがどこなのか分からないのに。





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