Storytelling, Again 2018・9/春日線香
かつて生きた記憶を持ち、中にはまだ地上に暮らしているものもあるかもしれない。だが時が来て雲が晴れれば熱い太陽に熱せられ、熟した葡萄のように弾けるだろう。痕跡も残さずこの世から消え失せるだろう。誰もがそれを知ってはいるのだが。
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見えているのに見えないふりをしている。うっすらと埃の積もった本棚、弱っていく観葉植物の鉢、皮膚の下の小さなしこり。生活が生活でなくなり、わたしが人間でなくなるのはどの冬の真夜中なのか。水道から流れる水がわざと焦らすようにゆっくりと排水溝に消えていく。ほんのわずかな音も立てずに。
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