絆創膏と紙コップ/ホロウ・シカエルボク
 
入った紙コップと、絆創膏が置いてあったそうです。自分の手には負えないと思って、助けを呼びに行こうとしたんでしょうね。」
 俺は飲むのも忘れてマスターの話に聞き入っていた。「娘が成人して嫁に行く」と笑った彼の顔を思い出した。おそらくあの日は、「生きていれば二十歳」の誕生日だったのだろう。
 「ようやく意識が戻って、傷が治ってから彼は娘さんのことを聞かされました。退院してからたまたま、愚痴を言いに来たのがこの店でしてね。そのときにそんな話を、聞きました。」
 俺は黙って頷いた。
 「それから何度か辛くなるとここに来て飲んで行かれたんですよ。何年かして奥さんが病気で亡くなられたときに、『娘が二十
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