海上へ 2018・7-8/春日線香
み、何食わぬ顔で日陰に移動して眺めてみる。灰色と薄紫色の中間の色彩には深海を思わせる深みがあって、世界の真実がここにあると思わせる存在感を放っている。右目だろうか左目だろうか。鬼は瞳を奪われてどんな苦しみを、どんな絶望を感じているだろうか。失った瞳が生え変わるのには長い年月がかかるだろう。嬉しい気持ちで握りしめる。それは硬くひんやりと冷たい。
* * *
死んだ人ばかりの町で悪口を言いながら酒を飲む。その後は近くのダムから流れてくるせせらぎに沿って歩き、誰もいない土産物屋を覗いて、峠にへばりついている古い駅に辿り着く。そこではほとんど無言だった。駅舎の屋根越し
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