坂井信夫『黄泉へのモノローグ』について/葉leaf
 
詩作というのは一つの可能世界を作り上げることだが、ここには詩編の数だけ可能世界がある。
 ここまで世界が増殖させられるとその行き先が問題となるが、坂井はそこに聖なるものを配置することにより構造を生み出した。それが死者との接触、黄泉との接触である。可能世界が限りなく増殖していく、いわば世界のインフレーションの現場で、そのインフレーションを秩序付けているのが黄泉という聖なるものによる中心化なのだ。世界はどこまでも増えていきながら、すべて黄泉へと収束する。黄泉は中心であり、世界を生み出す源泉であり、すべての可能世界を秩序付ける。
 さて、坂井の本詩集は、認識論的に見ても存在論的に見ても面白いものであ
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