街のもの言わぬ羽/ホロウ・シカエルボク
の夜には時々そんな衝動が無駄に俺を歩かせる、行きつく場所は決まって街のどんづまりの港だった、いまではずいぶん規制が厳しくなって、無関係な人間が船のそばまで行くことは出来ないけれど、それでも海の上を吹き荒れる激しい風と、そこが何なのかも判らない遠い対岸の、水性クレパスみたいな滲み方をしている様々な灯りを見ることは出来る、港の敷地の隅には打ち捨てられたパイプ椅子がいくつかあって、座れそうなやつを選んで眺めのいい場所に腰かける、昔はそこも不良や恋人たちで賑わったもんだが、街の反対側に新しい港が出来てからは古い港を訪れるものはあまり居なくなった、向こうの港の方が大きいし、そこに行くまでの道も大きくて走り易
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)