気の遠くなりかたについて(山茶花オクリ讃2)/渡邉建志
 
のだ。そこに薪がなくてもかまわない。そこにコンロが、食器がなくて
もかまわない。山頂に着いたら、みんなで鍋の前に並んで、蛤のみそ汁の匂い
で充ちた湯気に鼻を温めよう。そこに鍋がなくてもかまわない。そこに蛤が、
みそが、湯がなくてもかまわない。そこにだれがいなくてもかまわない。僕た
ちの内の僕がいなくても。ふる雪に濡れて凍えなくても。この冬がなくても。

意識が溶けている。もはや。事実と認識の二重性の中で、確信が持てなかったはずの僕たちが信念を覚えたからには死が近い。「そこに薪がなくてもかまわない。」の怖さがすごい。それ以上に「ても」の音の美しさはこれはなんだろう。命がけの仮定逆接。コ
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