二月からのこと/山人
くつか濁った声を出し
私の上を飛んだ
額に灯火されたランプのもとには
蛾や羽虫が擦り寄り
光源に酔っている
ヒキガエルのこどもが
のそりと動く
わたしも彼らも
きっとどこかに帰るのだ
ねぐらへ棲み処へと
ザリッ
スパイク長靴が石とこすれあう音が
九月の夜の山道に
孤独に響いた
*
空が重く垂れさがっている
泣きそうな重い空気が
地面に着陸しそうになっていた
野鳥は口をつむぎ
葉は雨に怯えている
狂騒にまみれたTVの音源だけが
白々しく仕事場にひびく
悪臭を放つ越冬害虫が空を切る
その憎悪にあふれた重い羽音が
気だるく内臓に湿潤
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